犬の乳腺腫瘍について
犬の乳腺腫瘍は犬にできる腫瘍の中でも多い腫瘍です。
犬には、普通左右5個ずつ合計10個の乳頭とそれに対応する乳腺組織があります。乳腺は脇の下からはじまり、陰部近くにまで存在しています。つまり、胸部・腹部のかなり広範囲にわたって乳腺が存在しているのです。そして、そのどの部分に対しても乳腺腫瘍が発生する可能性があります。
乳腺腫瘍の50%は良性であり、50%は悪性です。また、腫瘍によっては同一腫瘍内に良性部分と悪性部分が混在することもあります。
良性の腫瘍は小さく境界明瞭であり、触診では硬いです。
ただし、良性の腫瘍でも徐々に大きくなるものもあり、化膿したり、皮膚が破れるものもあります。
悪性の腫瘍のうち50%は切除後に再発や転移を認めます。
炎症性の乳癌は、発赤、熱感および浮腫を認め、増大と転移が早く、予後不良です。
腫瘍が大きくなりすぎると皮膚が破れたり、部分的に感染を起こしたり、腫瘍内部で部分的に壊死巣が発生したりします。大きいと切除域も大きくなります。
肺への転移が見られた場合は、予後不良です。
★乳腺腫瘍の原因★
乳腺腫瘍の発生にはエストロジェンやプロジェステロンなどの雌性ホルモンが関係していると言われています。そのため、高齢の避妊手術を行っていない雌犬は発生確率が高くなります。また、避妊手術の実施の有無あるいは避妊手術の時期によってその発生率はかなり違ってきます。
肥満はヒトの乳腺腫瘍と同じように、犬の乳腺腫瘍においても一定の影響を与える可能性があります。避妊手術をした犬では9~12ヶ月齢の時点でやせていた犬の方が肥満していたものの比べて発生率が低下しています。
★避妊手術と乳腺腫瘍の発生率★
乳腺腫瘍はホルモン依存性です。卵巣子宮摘出術は乳腺腫瘍の危険性を著しく下げます。初回発情前に避妊手術を行うことにより発生の危険性0.5%となります。初回発情後に実施すると8%に跳ね上がり、2回目に発情後に行うと26%になります。
★診断・治療の流れ★
問診、視診、触診を行います。
手術が前提であれば、麻酔に耐えられるかどうか確認するために血液検査を行います。
肺への転移がないかどうか胸部レントゲン検査を行います。
必要であれば、腹部のレントゲン検査や超音波検査を行います。
★治療★
乳腺腫瘍の治療は手術が基本で、全ての腫瘍を完全に切除することです。
乳腺の切除とともに卵巣子宮摘出術を行うことによって、エストロジェン、プロジェステロンの雌性ホルモンが抑えられ、再発の抑制に効果があるともいわれている。
★外科的切除★
~小結節摘出術~
・腫瘍ができている部分だけ摘出する方法で、検査が主な目的です。
・手術時間は短くてすみますが、病理組織検査で悪性の場合、再度大きく取り直す必要があります。乳腺自体が残るので再発が多いです。
~単一乳腺摘出術~
・1つの乳腺のみ摘出することです。
~第1~3乳腺摘出術、第3~5乳腺摘出術~
・腫瘍が1つの乳腺にできている場合に選択されることがあります。
・腫瘍ができている乳腺と、その乳腺とリンパ管によってつながっている乳腺とを摘出します。
・片側乳腺摘出術よりは切除する範囲が小さく、手術時間も短くですみます。
~片側乳腺摘出術~
・片側の乳腺をすべて摘出する方法です。
・飼い主様の同意が得られれば、この方法を第一選択としております。
・切除する範囲が大きくなり、手術時間も長くなりますが、再発率が非常に低くなります。
・また、乳腺腫瘍が両側に発生している場合は、腫瘍が大きい方を先に摘出し3~4週間後に反対側を摘出します。
~両側乳腺摘出術~
・全ての乳腺を摘出する方法です。
・切除する範囲が広すぎるため皮膚に余裕がなく、術創の閉鎖が難しいため、ほとんど行われません。
★化学療法★
乳腺腫瘍摘出手術後の病理検査で、次の所見があった場合は、再発や転移の可能性が高いので、抗がん剤で治療を行います。
・切除縁に腫瘍細胞があった場合。
・リンパ管内浸潤やリンパ節転移があった場合。
・脈管内浸潤があった場合。
★予防★
初回発情前に避妊手術を行うと、乳腺腫瘍の発生率は0.5%になりますので、5~6ヶ月齢での避妊手術をお勧めいたします。
★しこりを見つけたら★
日頃から胸から下腹部にかけてしこりがないか触って、確認してあげましょう。
悪性の乳腺腫瘍でも早期に発見し、早期に摘出すれば治すことができます。
しこりを見つけたら、早めにご相談ください。
※ 全院で、夜間診療は行っておりません。