診療部門より
男の子の病気について①?
3月も末だというのにまだまだ朝晩は寒いですね。
春までもう少し、体調を崩さぬように飼い主さんもワンちゃんネコちゃんたちも気をつけてくださいね。?
前回、不妊・去勢手術についてお話しました。
今回は、メリットの1つにあげた不妊・去勢手術をすることで予防が可能な生殖器関係の病気について、より詳しくお話したいと思います。
去勢手術をおこなうことによって、「精巣腫瘍」や、「前立腺肥大」といった病気が予防できます。
まず、「精巣腫瘍」について説明していきましょう。
犬の精巣腫瘍は去勢をしていない雄犬では2番目に多い腫瘍といわれています。
それら精巣腫瘍のタイプは、腫瘍化する細胞によって
・ 間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)
・ セルトリ細胞腫
・ 精上皮腫(セミノーマ) に大きく分類されます。
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セルトリ細胞腫の1例、大きい方が腫瘍化した精巣です。
精巣腫瘍が発生しやすい危険因子は、年齢、停留精巣(陰睾)、犬種、環境要因などが指摘されています。
とくに、停留精巣と精上皮腫、セルトリ細胞腫の関連性は高く、
ある報告では精上皮腫の34%、セルトリ細胞腫の54%は停留精巣で認められたとされています。
停留精巣では、正常と比較して9倍も高い確率で、精巣腫瘍が発生するというデータがあります。
また停留精巣の場合、比較的若い子でも精巣が腫瘍化することが多いようです。
(ちなみに私は3歳で停留精巣を切除した子にすでに腫瘍ができていた症例を診たことがあります。幸い、初期でしたので転移の心配もなかったですが。)
さて、「腫瘍といえば転移はどうなの?」と、皆さん心配されると思います。
精巣腫瘍は転移することは少ないです。(約15%以下)
しかし、こないだ参加した学会ではフロアにいた先生の約30%が精巣腫瘍の転移を経験されていました。(割合が違うのは分母が違うからだと思いますが)
残念なことに、精巣腫瘍が転移していた場合、有効な抗がん剤治療というのはあまり報告がありません。
もうひとつ、精巣腫瘍で押さえておくべきところは、セルトリ細胞腫に多く見られる(まれに間質細胞腫でも)高エストロジェン血症による弊害です。
エストロジェンとは女性ホルモンなのですが、セルトリ細胞腫では、この女性ホルモンが産生され、その分泌過多により脱毛、雄の女性化(乳房の女性化など)、精巣の萎縮、骨髄抑制・・・などが起こりえます。
この高エストロジェン血症で、もっとも厄介なのが骨髄抑制の症状です。
骨髄は血液の細胞を作っている工場なので、ここがやられるということは、
貧血(酸素を体中に運ぶ赤血球が少なくなる)、
血小板の減少(血小板は出血時に血を固める働きを持つ。これが減少すると血がとまりにくい状態におちいる)、
白血球の減少(白血球は体で細菌やウイルスと戦う細胞。これが少なくなると免疫力が低下する)、
が起こります。
つまり、いくら精巣腫瘍があるから手術をしましょうとなっても、骨髄がそんな状態では手術することが不可能な場合があります。
また、骨髄抑制の原因が精巣腫瘍だったとして、手術して骨髄抑制が改善するのは30%しかいないと報告されています。
回復できる30%の子たちも、完全に骨髄が元に戻るのに約5ヶ月かかるといわれています。
・・・・・・精巣腫瘍といっても、手術すれば絶対安心というわけではないのです。
どんな病気でもそうですが、早期発見・早期治療がやはり肝心ですね。
お宅のワンちゃんは、去勢してないのに本来あるべき場所に精巣がない!!なんてことはありませんか?
そけい部(陰茎の横、後ろ足の付け根)に精巣がある場合は確認がしやすいですが、お腹のなかに精巣が残ってしまったままの場合は、たとえ大きくなっていたとしても分かりにくいことがあります。
思い当たる方は、一度病院にご相談をされたほうがよいと思われます。
この症例は2つともお腹の中にある停留精巣でした。
ここまで、いろいろワンちゃんの精巣腫瘍についてお話してきましたが、ネコちゃんはどうでしょう。
ネコちゃんの精巣腫瘍の報告はごくわずかしかありません。
雄ネコは通常去勢手術が行われることが多いため、発生が少ないのが理由と思われます。
去勢をしない野生のトラなどでは精巣腫瘍の報告があるので、まだ去勢をしてない場合は、大きさや形などをチェックしてあげるといいと思いますよ。
では、次回は「前立腺肥大」についてお話したいと思います。
※ 全院で、夜間診療は行っておりません。