動物由来感染症②(腸管出血性大腸菌症、サルモネラ症、カンピロバクター症)
最近、富山県等の焼肉店で、「腸管出血性大腸菌O‐111」による食中毒事件が起こり、死亡者や重傷者が多数報告されています。また、山形県で団子が原因とされるO157による食中毒、ドイツで生野菜が原因とされるO104による食中毒が報告されています。
これらの腸管出血性大腸菌の他にも、「サルモネラ」、「カンピロバクター」など食中毒の原因になる細菌はたくさんあります。
食中毒菌は飲食物からの感染がほとんどですが、犬、猫などのペットからの感染もあります。また、犬、猫も感染すると嘔吐、下痢などの症状を示すことがあり、子犬・子猫では、症状が重くなることもあります。
これから夏にかけて、気温が上昇し、湿度が高くなるため、食中毒の原因となる細菌の増殖が活発になるため、食中毒が発生しやすくなります。
今回は、発生の多い食中毒の原因菌である「腸管出血性大腸菌症」「サルモネラ症」「カンピロバクター症」についてお話します。
〇腸管出血性大腸菌症
~病原体~
腸管出血性大腸菌症は、血清型0157、0111、O104、0128、0145、026などの毒素を産生する大腸菌による感染症です。動物の腸管内に生息します。
~感染経路~
汚染された食品、飲料水を摂取することのよって感染します。
・原因食品:牛レバ刺し、ユッケ、牛タタキ、サラダ、生野菜、井戸水など
~人の症状~
1~10日間の潜伏期の後、激しい腹痛と発熱、大量の新鮮血を伴う血便、嘔吐が発症します。特に抵抗力の弱い子供や高齢者重症は、重症になりやすく、溶血性尿毒性症候群などの合併症などを起こして死亡する例もあります。
~犬・猫の症状~
多くは無症状ですが、嘔吐、下痢、腹痛、食欲不振、発熱等の症状がみられすこともあります。
~予防~
食肉は中心部までよく加熱する(75℃、1分以上)
野菜類はよく洗浄する。
〇サルモネラ症
~病原体~
サルモネラ症は、主にサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)という細菌による感染症です。サルモネラ菌は、自然界のあらゆるところに生息し、家畜、ペット(カメ、イヌ、ネコ、ハムスターなど)、鳥類、爬虫類、両生類が保菌しています。
サルモネラ菌の保有率:ウシ、ブタ、ニワトリ10~30%、イヌ、ネコ3~10%、ミドリガメ(ミシシッピーアカミミガメ)50~90%
~感染経路~
人は本菌に汚染された食品、特に卵、肉、乳製品、生野菜などを摂取することで感染します。また、保菌動物の糞便、汚染水などの摂取によって感染します。
・原因食品:卵、またはその加工品、食肉(レバ刺し、鶏肉)、うなぎ、すっぽんなど。
~人の症状~
6~72時間の潜伏期の後、突然の腹痛、嘔吐、下痢、発熱を発症します。下痢は水様便となり、血液や粘液が混じることもあります。
小児や高齢者が感染した場合には症状がより重篤化し、高熱、頭痛、意識低下、混迷、けいれんなどを起こすこともあります。
~犬・猫の症状~
多くは無症状ですが、嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失、発熱の症状が現れることもあります。
~予防~
・原因食品、特に鶏肉、鶏卵は十分に加熱(75℃以上、1分以上)することが重要です。
・また、動物に触れた後は必ず早めに手をよく洗う必要があります。
・ペットには、生肉を与えないように注意してください。
・犬が散歩中に拾い食いしたり、他の犬の糞便で汚染された草などを食べさせないように注意してください。
・特にカメの保菌率が高いので、カメの水槽の水を換える時等は、ゴム手袋をはめて行い、水槽は塩素系漂白剤で消毒します。
〇カンピロバクター症
~病原体~
カンピロバクター症は、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)とカンピロバクター・コリ(C.coli)という細菌による感染症です。カンピロバクター菌はニワトリやウシ・ブタなどの家畜や、イヌ・ネコの腸管内に分布し、人に感染します。特に子犬は高率にカンピロバクター菌を保菌しています。
~感染経路~
本菌に汚染された水や食品(特に豚肉)などからの経口感染や、保菌した犬・猫との接触によって感染します。
・原因食品:食肉(特に鶏肉)、飲料水、生野菜など。
~人の症状~
潜伏期は2~6日で、全身の倦怠感、頭痛、腰痛、発熱があり、2~3日遅れて腹痛、嘔吐、下痢がみられます。
~犬・猫の症状~
多くは無症状ですが、下痢を起こすこともあります。慢性感染によって、間欠的に下痢がみられ、痩せていきます。
~予防~
・食肉は十分な加熱(65℃以上、数分)を行う。
・犬・猫に接触した時は、手洗いをすることが重要です。
〇家庭でできる食中毒予防の6つのポイント
食中毒菌は加熱により死滅します。食中毒を防ぐ基本は、食中毒菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」ことです。
次に紹介する「6つのポイント」に気をつけて食中毒を予防しましょう。
①食品の購入~新鮮な物、消費期限を確認して購入する等
②家庭での保存~持ち帰ったらすぐに冷蔵庫や冷凍庫で保存する等
③下準備~手を洗う、きれいな調理器具を使う等
④調理~手を洗う、十分に加熱する等
⑤食事~手を洗う、室温に長く放置しない等
⑥残った食品~きれいな器具容器で保存する、再加熱する等
※ 全院で、夜間診療は行っておりません。