動物由来感染症(回虫症、鉤虫症、鞭虫症)
動物由来感染症の今回は、消化管内の寄生虫についてお話いたします。
ワンちゃん、ネコちゃんの消化管に寄生する寄生虫の中には、人に感染するものもあります。その中でも、犬回虫、猫回虫、犬鉤虫、犬鞭虫は比較的発生が多い寄生虫です。寄生虫やその感染経路を知り、ワンちゃん、ネコちゃんや人への感染を防ぎましょう。
〇犬回虫症・猫回虫症
~病原体~
イヌを終宿主とする犬回虫とネコを宿主とする猫回虫による感染症です。犬回虫は長さ4~18cm、ネコ回虫は長さ3~12cmの細くて白い虫です。イヌやネコでは一般的な寄生虫です。
~感染経路~
感染経路は母犬の組織・臓器の幼虫が胎児に移行する胎盤感染が主です。また、母乳から幼虫が感染する乳汁感染もあります。また、幼犬の糞便中に排泄された未熟卵が1ヶ月ほどで感染幼虫を含む成熟卵となり、経口的に摂取することで感染します。
公園の砂場には猫回虫や犬回虫の卵があることが多く、そこで遊ぶ子供達に感染することもあります。また。回虫に感染しているイヌやネコの口や肛門の周りや被毛に虫卵が付着していることもあり、過剰な触れ合いで感染することもあります。
また、成熟卵を摂取したネズミなどを摂取することによって感染することもあります。人では、回虫の幼虫が含まれるニワトリやウシ、ブタの肉(肝臓や肉の刺身)を加熱不十分な状態で食べて感染することもあります。
人や生後3ヶ月以上の犬が感染すると、経口摂取された回虫卵は小腸で孵化し、幼虫は門脈を経由して肝臓へ達します。さらに血流に乗って循環し、全身の臓器や器官に達します。人の体内では成虫になることはありません。
~動物の症状~
犬回虫症は、母イヌから胎仔へ、妊娠中に胎盤経由で移行するのが主な感染経路です。子イヌに多数の回虫が感染した場合、下痢、嘔吐、栄養状態の悪化、腸閉塞、肺炎、気管支炎を起こすことがあります。
猫回虫の場合、胎盤感染は起こりませんが、乳汁を通して子ネコに感染します。症状は犬回虫に感染したイヌの場合と同様です。
~人の症状~
回虫の幼虫が、健康上問題のない人の体の中に入った場合、ほとんど心配いりません。しかし、免疫力の弱い人や幼児では、虫卵が腸の中で孵化し、回虫の幼虫が肝臓・目・神経など全身の内臓に移動して、いろいろな症状が出てしまうことがあります。それを幼虫移行症といいます。
目に侵入した場合には視力障害が起こり、神経に侵入した場合には、運動障害が起こります。また、内臓に侵入した場合には、肝腫大、肺炎症状、ぜん息発作、関節痛、筋肉痛などの症状が現れます。
〇犬鉤虫症
~病原体~
? 犬鉤虫という体長1~2cmの白い吸血性の寄生虫が原因です。
~感染経路~
排泄後1週間で孵化した幼虫を犬が経口摂取したり(経口感染)、また犬や人に皮膚や毛穴から侵入したり(経皮感染)することによって感染します。
経口感染により侵入した幼虫は、小腸粘膜内に入り、2~3週間で成熟します。皮膚から侵入した幼虫は血流によって肺に到達し、そこから気道→食道→経由して小腸で成虫となります。
一部の幼虫は体組織に幼虫のままとどまり、経乳感染や胎盤感染の際の感染源となります。
~動物の症状~
成虫が鋭い歯牙で腸絨毛に咬みついてそこから吸血して栄養源とします。腹痛や食欲不振、下痢、出血性下痢(黒色タール状の血便)が見られます。また、鉤虫の咬みつく傷口からの出血と吸血のため、貧血状態になることもあります。
抵抗力の弱い子犬の場合、激しい下痢や血便が始まり、衰弱して死にいたることもあります。
~人の症状~
感染幼虫がまれに皮膚から侵入し、皮膚炎を起こし、ミミズ腫れを起こすことがあります。皮膚の下を這い回るのでかなり痒みがあります。幼虫移行症のひとつです。
〇 犬鞭虫
~病原体~
犬鞭虫という寄生虫が原因です。
~感染経路~
排泄されたばかりの虫卵では感染しません。外界に出た虫卵は発育し、排泄後16~35日で幼虫を含むようになります。高温。多湿の場所が好適な発育場所になります。幼虫は孵化することなく、虫卵に含まれたまま感染の機会を待ちます。成熟卵は抵抗性が強く、戸外の土の中で5年間にわたって生存することもあります。
これを経口的に摂取すると感染します。虫卵が小腸に到達すると幼虫が孵化し、小腸粘膜内に侵入して発育します。8~10日後には腸管に戻り、盲腸に移動します。盲腸では粘膜内に頭部を穿入して寄生します。感染後80日で産卵を開始します。
~動物の症状~
腸で出血が生じ、粘液のある血便をしたり、嘔吐、食欲不振、栄養障害、貧血を起こします。
~人の症状~
成熟卵が口から入り感染し、下痢や嘔吐を起こすこともあります。
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~消化管内寄生虫の予防法~
・ワンちゃん、ネコちゃんに触ったり、砂場や公園で遊んだら、十分に手洗いを行う。
・ワンちゃん、ネコちゃんにキスをしたり、口を舐められようにする。
・ワンちゃん、ネコちゃんは、定期的にシャンプーやブラッシングをして清潔にする。
・ワンちゃん、ネコちゃんの排泄物は速やかに片付ける。
・ワンちゃん、ネコちゃんは、定期的に便の検査などの健康診断をうける。
・ワンちゃん、ネコちゃんの体調が悪い時には早めに診察を受ける。
※ 全院で、夜間診療は行っておりません。